ちょっと大げさな感じですが、ここまで文章を読み進めてくださった方にはお口の健康を取り戻すことで大きなメリットがあることはご理解頂いたと思います。歯を失ってしまった結果、失ったのは単純に歯そのものという臓器だけではなく、歯があったライフスタイル、つまり今まで何気なく出来たお食事、会話などの楽しい時間に制約ができてしまった。そしてこれからもその人生を受け入れていかなくてはいけないという事実があるのです。
しかし、その失ってしまった機能回復を行い、再び食事や会話を楽しめるように導いてくれる治療がインプラントです。インプラント治療をお考えの方はメリット・デメリット両方をきちんと理解してから選択することが大切です。
それでは気になるインプラントのデメリットから考えていきましょう。
正直、手術と聞くと怖いですよね。
しかし、必要なインプラントの本数にもよりますが虫歯や親知らずを抜くような処置に比べれば辛くなかったという方がほとんどです。また今は麻酔の種類もいくつかありますので、患者様と相談して行なうことが出来ます。 |
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インプラント治療は病気の治療(熱や痛みといった炎症によるもの)というより機能回復を経て生活の質を改善する、といった考え方が強く健康保険の適用ではありません。
しかし外傷によるものなどでは民間の保険では適用になる場合もあります。外国では保険適用の国もありますが、我が国の政策では今後も期待は薄いです。それに加え、歯科医療に対する評価が世界一低いと言っても良いくらいの日本では、たとえ健康保険で治療が行えても、適用内の治療で質を保つことは困難でしょう。
歯科医院によっても多少異なりますが、品質の良いインプラントを入れると、1本あたり約30万円から60万円程度の費用がかかります。相場より低価格帯のものもありますが、先ほどもお話した「質」に問題がなければいいのですが、必要な手順、時間、品質を考慮した場合、大体この価格帯になっているようです。
そういったことも含めてインプラント治療は
「人生の投資」と言った意味合いもあるでしょう。そんなにグルメではなくても食事をせずに生命活動は維持できません。あなたのその体はすべて過去に自身で食べたもので作られていることは明らかです。そう考えると一日何回も取る食事を栄養に変えるお口の役割はとても大きいですよね。そして美味しく食事をとり、会話も楽しめれば
投資以上の価値があると思いませんか。
例えば、お口に歯が1本もない総入れ歯状態で、上下固定式のインプラントに変える場合の治療費として300万くらいかかったとします。今60歳くらいだとして日本人の平均寿命といわれる80歳くらいまででもお食事の回数は何回あるのでしょうか。1日3回として20年間で21900回です。そうすると1回あたり100円ちょっとで美味しい食事と会話を楽しむことも得られることになります。この費用は、ジュースやお茶のペットボトルと同じくらいです。お茶やジュースでお食事を流し込むのと、しっかりご自身の歯で噛み、唾液でお食事本来の味の広がりを楽しむことができ、また消化吸収を良くしご自身の体の血や肉となり健康の維持増進に貢献する臓器を手に入れるのとどちらが良いでしょうか。
確かに費用はかかります。でも長い目で見ればその後の人生の健康や体そのもの、精神的なもの、置き換えられないかけがえのない価値からしたらけっして高いものではないと私は考えています。

インプラントを埋める手術をして1週間後には歯が入ると思っている方は多いようです。それは今までの歯科治療で歯の型をとってから大体1週間で詰め物や被せ物が入っていた経験からでしょう。
しかしインプラントは埋め込んだ後にインプラントの周囲に骨が結合するのを待たなくてはいけません。
上顎では4ヶ月~6ヶ月。
下顎では3ヶ月~5ヶ月待つのが一般的です。これが
骨結合と言われる状態になり、しっかりと物を噛めるようにする基礎になるのです。土台がしっかりしていないと、後で上部が動いたり、ズレたりする可能性があり困りますよね。よく家の基礎に例えられますが、しっかりとした基礎の上に家を建てるのと同じです。
また、最近では条件さえ整えば手術後短い時間で、上部まで入れても良いということも分かってきました。埋め込むときの固定が強く得られた時などです。これを
「初期固定」と呼びます。下顎は上顎に比べて骨が硬いので「初期固定」が得られやすく比較的早く上部を入れることができる傾向にあります。

インプラントを埋め込むことは小さい手術ですが、外科手術です。お口の中だけでなく体全体にも関係してきます。インプラント治療に限ったことではありませんが、治療を安全に受けるためにはご自身が抱えている体の状態を歯科医師にしっかり伝えることが重要です。特に全身疾患があればその種類と重症度を伝えておく必要があります。
糖尿病などの代謝系疾患で症状の強い方や、心筋梗塞や狭心症などの循環器疾患の方など、年齢を重ねると内科の先生にお世話になる機会も増えてきます。基礎疾患がきちんとコントロールされていれば問題ない場合がほとんどですが、骨粗しょう症の飲み薬やビスフォスフォネート薬剤は、治療に影響があるため特に注意が必要です。飲んでいるのであれば必ず歯科医師にお伝え下さい。
必要な内科的な治療があればそちらを優先する場合もあります。患者さんに安全な治療を提供するという目的はもちろんですが、そのあと楽しく食生活を送っていただくためにも大切だと考えているからです。